あなたが恐怖から目をそらし、布団の中で息を殺している間、部屋の暗闇で自由を得た一匹のゴキブリは、一体どのような活動を繰り広げているのでしょうか。その行動を知ることは、彼らを放置することの本当の恐ろしさを理解する上で、非常に重要です。ゴキブリは夜行性の生物であり、人間が寝静まった深夜こそが、彼らにとってのゴールデンタイムです。彼らは、その優れた嗅覚と、壁や床の振動を敏感に察知する感覚器官を頼りに、安全な隠れ家から這い出してきて、主に三つの目的のために、あなたの部屋を徘徊します。第一の目的は、「餌探し」です。あなたが気づかずに床に落とした、ほんの小さな食べかすや、飲み物のシミ、あるいはペットフードの残り。さらには、人間の髪の毛やフケ、垢、本の糊に至るまで、彼らにとって、部屋の中はご馳走で満ち溢れています。彼らは、キッチンカウンターや食卓の上、そして時には、あなたが使っている歯ブラシの上さえも、平気で歩き回ります。第二の目的は、「水分補給」です。ゴキブリは、餌がなくても長期間生きられますが、水がなければ数日で死んでしまいます。キッチンのシンクに残った水滴や、風呂場の湿気、観葉植物の受け皿の水、そして意外な盲点となるのが、あなたが眠っている間に、あなたの口元からこぼれた唾液です。そして、第三の、そして最も恐ろしい目的が、「繁殖活動」です。もし、あなたが見かけたゴキブリがメスであったなら、彼女は、あなたが眠っている間に、部屋のどこか、暖かくて暗く、湿った安全な場所に、次世代の命が詰まった「卵鞘(らんしょう)」を産み付けているかもしれません。冷蔵庫の裏や、家具の隙間、段ボールの中などが、その候補地です。そして、その活動の過程で、彼らは、下水管などから体に付着させてきた、サルモ-ネラ菌や赤痢菌といった、様々な病原菌を、部屋の至る所にばらまいていきます。ゴキブリを放置して寝るということは、あなたの部屋が、彼らにとってのレストランであり、給水所であり、そして子孫繁栄のための安全な繁殖地となることを、無言で許可しているのと同じことなのです。