夏のキッチン、少し油断して生ゴミを放置してしまった。その翌日、ゴミ袋の中から、あの、言葉では言い表せないほど不快な、白い小さな芋虫「うじ虫」が湧いているのを発見してしまった。この、私たちの衛生観念と精神を根底から揺さぶる悪夢は、一体どこから始まるのでしょうか。その全ての元凶は、私たちの目にはほとんど見えない、極めて小さく、そして恐ろしく効率的に産み付けられる「ハエの卵」にあります。イエバエやクロバエといった、私たちの家庭環境に現れるハエの卵は、長さ一ミリ程度の、白く細長い、まさに米粒をさらに小さくしたような形をしています。メスのハエは、一度の産卵で、数十個から百個以上もの卵を、房状の塊として産み付けます。彼女たちが、その大切な卵を産む場所を選ぶ基準は、ただ一つ。「孵化した幼虫が、すぐに栄養豊富な餌を食べられる場所」であることです。そして、その最高のレストランこそが、腐敗が始まったばかりの、湿り気のある有機物、すなわち、キッチンの生ゴミや、動物のフン、そして死骸なのです。ハエは、その鋭い嗅覚で、腐敗が放つ微かな匂いを敏感に嗅ぎつけ、わずかな隙間から侵入し、産卵を行います。そして、ハエの卵の最も恐ろしい特徴は、その驚異的な「孵化スピード」にあります。気温が二十五度から三十度程度の、夏場の好条件であれば、産み付けられてから、わずか半日から一日足らずで、卵は孵化し、うじ虫となって活動を開始するのです。つまり、「昨日の夜は何もなかったのに、朝になったらうじ虫が湧いていた」という現象は、科学的に見て、ごく当たり前に起こり得ることなのです。この事実を知れば、生ゴミの管理がいかに重要であるかが、痛いほど理解できるでしょう。ハエの卵は、その小ささゆえに、私たちの注意をすり抜けていきます。しかし、その一粒一粒が、数日後には新たなハエとなり、さらなる卵を産み付ける、不衛生の連鎖の始まりを意味します。生ゴミを密閉し、即座に処分すること。それが、この悪夢のサイクルを断ち切るための、唯一の方法なのです。
うじ虫の元凶ハエの卵