家の軒下や、窓のサッシの隅、あるいは物置の奥で、白い綿や、土で固めたような、小さな塊を見つけたことはありませんか。それは、あなたの家の見えないところで害虫と戦ってくれている、頼もしいハンター「蜘蛛」が残した、次世代への希望「卵」かもしれません。蜘蛛の卵は、他の害虫の卵とは異なり、そのほとんどが「卵のう(らんのう)」と呼ばれる、糸でできた袋状の卵嚢に、大切に包まれています。この卵のうの形や色は、蜘蛛の種類によって様々で、白い綿のようなふわふわとしたものから、紙のように硬いもの、あるいは土やゴミでカモフラージュされたものまで、実に多様です。この頑丈な卵のうが、内部の数百の卵を、乾燥や衝撃、そして外敵から守っているのです。蜘蛛の卵のうを発見した時、多くの人が「気持ち悪いから、駆除すべきか」と迷うことでしょう。その判断は、蜘蛛という生き物を「害虫」と見るか、「益虫」と見るか、そして、その巣が作られた「場所」によって、変わってきます。まず、理解しておくべきなのは、日本国内の家屋で一般的に見られる蜘蛛のほとんどは、人間にとって無害な「益虫」であるという事実です。彼らは、ゴキブリやハエ、蚊、ダニといった、本物の害虫を捕食してくれる、家の衛生環境を守る「守り神」のような存在です。その卵のうを駆除するということは、未来の害虫駆除部隊を、自らの手で殲滅してしまうことを意味します。庭の隅や、普段あまり人が近づかない軒下などに作られた卵のうであれば、自然の営みの一部として、そっと見守ってあげる、という選択も十分に考えられます。しかし、その一方で、駆除を検討すべきケースもあります。例えば、卵のうが、玄関のドアの上や、頻繁に開け閉めする窓のすぐそばなど、日常生活を送る上で、どうしても接触してしまう場所に作られている場合です。春になり、数百匹の子蜘蛛が一斉に孵化して、家の中に拡散してしまう「バルーニング」という現象が起これば、さすがに不快に感じるでしょう。また、ごく稀ですが、それが危険な毒蜘蛛である「セアカゴケグモ」の卵のうである可能性もゼロではありません。最終的な判断は、あなた次第です。しかし、一方的に不快害虫と決めつける前に、その白い塊が、もしかしたらあなたの家を守る、未来の騎士団の揺りかごなのかもしれない、と少しだけ考えてみてはいかがでしょうか。
蜘蛛の卵は駆除すべきか?