あれは数年前の春のことでした。仕事が忙しくベランダの手入れを怠っていた私は久しぶりにカーテンを開けて愕然としました。室外機の裏に大量の枝と羽毛そしてこんもりとした鳩の巣が出来上がっていたのです。しかも中には既に卵が2つ。知識のなかった私はどうしていいか分からずネットで調べると勝手な撤去は違法だと知り途方に暮れました。それからの約一ヶ月間は地獄のような日々でした。早朝からの鳴き声独特の獣臭そして日に日に増えていく糞の山。洗濯物を干すこともできず窓を開けることすら躊躇われました。ようやくヒナが巣立った後私を待っていたのは想像を絶する掃除作業でした。まず見た目の汚さに心が折れそうになりました。巣の残骸には大量の糞が絡みつき雨でドロドロになった部分と乾燥してカチカチになった部分が混在していました。意を決して完全防備で挑みました。使い捨てのカッパマスクゴーグルゴム手袋そして長靴。まるで危険地帯の処理班のような出で立ちです。最初にぬるま湯をかけて糞をふやかす作業から始めました。乾燥した糞を削り取ろうとすると粉塵が舞うので水をかけるのですがその瞬間に立ち上る強烈な悪臭には何度も吐き気を催しました。こびりついた糞はデッキブラシで擦ってもなかなか落ちずスクレーパーを使って少しずつ削ぎ落としていきました。巣があった場所の下には大量のダニが蠢いているのが見え背筋が凍りました。殺虫剤を噴射しダニを駆除しつつ次亜塩素酸ナトリウムを希釈した消毒液を床一面に撒きました。室外機の裏側やフィンの隙間に入り込んだ羽毛を取り除くのも一苦労で竹串や歯ブラシを使って細かい部分まで掃除しました。作業は半日以上かかり終わった頃には全身汗だくで精神的にも肉体的にも疲労困憊でした。掃除用具や着ていたカッパは全てゴミ袋に入れて廃棄しました。これだけの苦労をして綺麗にしても鳩の臭いが染み付いているのか数日後にはまた鳩が様子を見に来たのです。二度とあんな思いはしたくないと心に誓い掃除の翌日には業者に頼んでベランダ全面にネットを張ってもらいました。この体験を通じて学んだのは鳩の巣作りを許してしまうとその後のリカバリーには膨大なエネルギーと精神的苦痛が伴うということです。