ゴキブリを放置して寝る際に、多くの人が抱く、最も根源的な恐怖。それは、「眠っている間に、ゴキ-ブリが自分自身の体を這い回ったり、あるいは顔の上に乗ってきたり、最悪の場合は、口や耳の中に入ってくるのではないか」という、想像するだに恐ろしいシナリオでしょう。この悪夢のような出来事は、果たして本当に起こり得ることなのでしょうか。結論から言うと、「可能性はゼロではないが、極めて稀なケース」というのが、現実的な答えです。基本的に、ゴキブリは非常に臆病な生き物であり、人間のような巨大な生物を、自ら進んで襲ったり、攻撃したりすることはありません。彼らにとって、人間は、予測不能な動きをする、巨大な脅威そのものです。そのため、通常は、人間の気配を察知すると、すぐに物陰に隠れようとします。しかし、いくつかの条件が重なった場合に、この「禁断の接触」が起こってしまう可能性があります。その最大の要因は、ゴキブリが、人間そのものを「餌場」として認識してしまうケースです。例えば、あなたがベッドの上でスナック菓子などを食べた後、その食べかすがシーツや枕元に残っていたり、あるいは顔や手に、食べ物の匂いが付着したまま眠ってしまったりした場合。飢えたゴキブリは、その匂いに誘われて、恐怖心よりも食欲を優先し、あなたの体に近づいてくる可能性があります。また、ゴキブリは、狭くて暗く、湿った場所を好む習性があります。そのため、眠っている人間の、暖かく湿った呼気が漏れる「口」や「鼻」、あるいは暗く狭い「耳」の穴を、格好の隠れ家と勘違いして、潜り込もうとしてしまうという、非常に稀な事故も、世界では報告されています。これらのケースは、決して日常的に起こることではありません。しかし、ゴキブリが家にいるという状況を放置することは、このような万が一の、しかし精神的に計り知れないダメージを負うリスクを、自ら受け入れているということでもあります。安心して眠るという、人間にとって最も基本的な権利を守るためにも、ゴキブリの存在は、決して看過すべきではないのです。